映画評
ネタバレを含む表現もありますのでご注意ください
| ジャズ大名 |
| 岡本喜八/筒井康隆 |
筒井康隆の同名短編小説を、ベテラン岡本喜八が見事に映画化してくれました。
原作も十分面白いのだけど、話の重要な要素である音楽が実際に聴けるのはやっぱりポイント高し。こんな途方もない話を、きっちりB級時代劇のセオリーに則って作ってしまう監督の力がすごすぎです。
スタッフもキャストもすごく楽しんでいそうで、見ていて気持ちがいい。
物語の出だしは南北戦争終結直後のバーモンド州。奴隷の身分から解放されたものの食っていく手立てを失ったジョー、兄サム、従兄ルイ、叔父ボブの四人の黒人が、退職金代わりにもらった楽器で楽隊を組み、糊口をしのぎつつ旅に出る。目指すは故郷アフリカ。
しかしニューオーリンズで乗せられた船はまったく逆方向の香港行きだった。騙されたことに気づいた叔父ボブは、クラリネットのリードが壊れた失意とあいまって病死。残りの三人は、嵐に乗じて小舟で脱出をはかる。そして漂着した先は駿河の小藩、時はまさに幕末のどん詰まりだった。
たかだか一万三千石の庵原藩、幕府につこうが朝廷につこうが世の趨勢が変わるわけでもなし、かといってどっちつかずでいれば両方から睨まれる。幸か不幸か東西交通の抜け道に当たっていて、両陣営の侍たちがひっきりなしに往来しては騒ぎを巻き起こす。領内は凶作、不漁つづきの上、黒船来航による世情不安まで抱えて、いささか厭世気味の殿様(古谷一行)のもとに、降って湧いた面白そうな出来事。この激動の時代をどう乗り切るか、その答えがここに示された!
個人的にお気に入りなのが、原作には登場しない二人の妹姫(神崎愛・岡本真実)。特に、少年の出で立ちで小太刀の使い手、役柄はシニカルなツッコミ役という末の姫がいい味出してます。この三人兄妹、性格はそれぞれ違っていても妙に波長が合っていて仲がいい。こういうのっていいなあと、本筋とはあまり関係ないところで感動してしまうのでした。
| 鉄塔 武蔵野線 |
| 長尾直樹/銀林みのる/「鉄塔 武蔵野線」製作委員会 |
舞台は東京郊外の保谷市(現・西東京市)。 両親の離婚により引っ越しを目前に控えた六年生の少年見晴は、近所に住む弟分のアキラとともにかねてより思っていたことを実行に移す。それは鉄塔をひとつひとつ辿りながら送電線をどこまでも遡り、その終点にあるはずの「1号鉄塔」を確認することだった…。
たとえ20kmかそこらの行程でも子供が大人の承認を得ずに行動するのいうのはなにかと困難が伴うもので、私有地や施設の敷地の壁、自転車の通れない道、 橋のかかっていない川、大人たちの目など少年たちの行く手を阻むものは実に多く、相対的にこれは大冒険物語となってしまうのでありました。
映画版では、見晴の冒険の動機付けが「子供らしい好奇心と冒険心」だけにとどまらず、電気工作が大好きでいつまでも子供っぽさの抜けないちょっとオタク風
味な父親への愛情と嫌悪が混じっていたりするのが切ないです。母親を慕いつつも、その母親が愛想を尽かした父親の嗜好を自分もしっかり受け継いでいる苦悩
が少年の暗めな表情に滲み出ていて、思わず泣けてしまう。
この見晴役を演じた少年(伊藤淳史)が8年後にドラマ「電車男」で自らオタク役を演じ大ブレイクしたあたり、かなり感慨深いものがありました。
| 奇談 |
| 小松隆志/諸星大二郎/「奇談」制作委員会 |
原作「生命の木」を読んだことがあったのだけど、意外に先が読めず新鮮な気持ちで見ることができました。
1972年晩秋。考古学研究室に籍を置く大学院生の里美(藤澤恵麻)は、16年前の失われた記憶を求めて東北地方の山村に足を踏み入れる。間もなくダムに沈んでしまう というその集落で突然起こった奇怪な殺人事件と16年前の事件が絡み合い、たまたま隠れキリシタンの調査でこの地を訪れていた異端の考古学者稗田礼二郎(阿部寛)が 謎の解明に乗り出す…というところまでは普通のオカルトミステリーだけど、その先がものすごいことになります。
原作シリーズのファンにとっては、「四角い穴」「村人からつまはじきされていた男の子」「七歳の子供の神隠し」など、他の話に出てきたモチーフが次々と現
れてくるのがたまりません。
妖怪の存在を証明しようとして学会を追放された考古学者という、少年ジャンプ掲載時の設定がしっかり生きているのもなんだか嬉しいです。
神隠しのモチーフは多少不整合な気もするけど、ぐんぐんストーリーに引きこまれます。里美と少年との語らいには思わず涙。
「世俗的な常識人」としての役場職員や警察官も好演。
ただ、訛りや特殊な用語が多いのと稗田役の阿部寛のセリフまわしが早口すぎるのとで、映画でこの話を初めて知るという人には細かいところがわかり
にくいと思われるのが難。
できればWEBなどである程度予備知識をつけてから見られたし。
| コヤニスカッツィ |
| ゴドフリー・レジオ/フィリップ・グラス/MGM |
アメリカ先住民のホピ族に伝わる『地の底の貴重な宝』の予言。 時を経て彼らの聖地からウラニウム鉱が発見され、それが広島型原爆の材料となった…
分類するとしたら、ドキュメンタリー映画ということになるのでしょうか。
多少のヤラセはあるにもせよ、使われているのはすべてセットでもCGでもない「本物」の映像。(CGをCGとして映しているのはまた別)
最初に荒涼とした北米大陸の風景が延々と十数分流される。これが怖い。
かつて先住民族が住んでいたと思われる痕跡(壁画)を残すのみで、生物の影さえまばらな砂漠、山脈、海が次々と画面に現れては消えていく。
資源採掘、都市計画、人々の生活、そして戦争と、視点を変えながら描き出す現代像。
人間はどこへ行こうとしているのか、あるいはどこへ帰ろうとしているのかを暗示しているようなラストが衝撃的でした。
| 快盗ブラック・タイガー |
| ウィシット・サーサナティヤン/トライエム |
一言でいえば、寅さんの夢のシーンだけを抽出して一本の映画にしてしまったかのような作品。 作りが妙に真面目なだけに意図してやったものなのか天然なのか判別がつかず、その意味でインパクトがやたら強烈でありました。
時は太平洋戦争末期、タイの農村に住む内気な少年ダムは、村長である父の言いつけで、バンコクから疎開してきた有力者の令嬢ラムプイの身の回りの世話と護衛を任され
る。美し
い自然の中で二人は幼い恋を育み、やがて戦争終結とともに切ない別れの日を迎える。
数年後に大学のキャンパスで再会した二人だったが、喜びも束の間、ダムの父が政敵に殺害され、からくも逃げ延びたダムは行く当てもないまま盗賊団に身を投
じる。
そこで彼は無敵のガンマン「ブラック・タイガー」として、裏世界で名を馳せることになるのであった。
ここまでだけでも細かいツッコミどころは数知れないのだけど、とりあえず東南アジアの風土らしきものを感じさせてはくれます。しかしここから先はもうなに
がなんだかわからない無国籍状態。
半世紀前のタイについての知識なんかまるでないが、マカロニ・ウェスタン風の盗賊が馬を駆り拳銃を乱射するというのはなんか違うだろうと思う…
とはいえ、前半の美しく幻想的なトーンで最後まで続けていたとしたらここまでのインパクトは到底得られず「フツーにきれいな映画」で終わっていただろうか
ら、やはりこれでよかったのでしょう。
| 北京好日 |
| 寧瀛/北京映画製作所 |
なんとなく集まった同好の士たちが、様々な諍いやアクシデントを乗り越えながら舞台をめざすというシチュエーション。
アメリカで言うなら「天使にラブ・ソングを…2」(1993年)、日本で言うなら「ウォーターボーイズ」(2001年)や「スウィングガールズ」(2004年)といったところですが、中国での傑作がこの「北京好日」(1992年)です。
ここで活躍するのは前途ある少年少女ではなく、すでに第一線をリタイアした爺さんたちです。
年金生活に入った北京のご隠居たちが、日向ぼっこがてら広場に集って京劇の真似事を始める。そこに加わったのが、元プロの劇場スタッフ韓老人。
それまでの裏方経験を生かして、演技指導や練習場の手配まで進んでやってくれる韓老人は大歓迎される。京劇同好会として党の承認をもらい、ついに市のコンクールに出場が決定。マスコミまで取材にきてメンバーの盛り上がりは最高潮に達するが…
見どころはなんといっても北京の町並みのロケ。長屋、銭湯、公民館といった、観光旅行ではあまり見ることのない場所を映してくれているのが嬉しい。
妙にいばりかえった公民館の職員やお目付役の共産党員がそのまんま中国の縮図のようで面白いし、また、ちょっとした世間話の端々に、戦争や革命相次ぐ激動の時代をそれぞれの立場で乗り越えてきた爺さんたちの人生が垣間見られるのも、作品に深みを与えています。

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